今回は表題の通り、尺モジュールとmモジュールのお話。
「しゃくもじゅーる」と「めーたーもじゅーる」と読みます。
普段はなかなか気にすることではないですが、近年特に新築の際に話題にのぼります。
下の方でメリット、デメリットをまとめていますので、よろしければご覧ください。
まずは基本
さて、新築などで新しく間取りを検討する際には、方眼紙のようなマス目に沿った形で検討していくことが一般的ですが、
これを実際の建築物のサイズに合わせると、一つのマス目が約910mm×910mmの大きさになります。
2つのマスでちょうど1畳(1818mm×909mm)。4つのマスで1坪(1818×1818)。
横4マス×縦4マスだと、合わせて16マスの長方形ができ、これが8畳間です。
元になっているのは、日本で昔から使用されていた尺貫法という単位系。
1分・・・3.03mm
1寸(1分×10)・・・30.3mm
1尺(1寸×10)・・・303mm
1間(1尺×6)・・・1818≒1820mm
1丈(1尺×10)・・・3030mm
という感じです。
最初にお話しした方眼紙の一つのマス目は3尺×3尺、半畳とも呼ばれ、
「立って半畳 寝て1畳・・・」というのはこんなサイズ感です。
そしてこれこそが表題にある”尺モジュール”というものです。

日本の建築においては昔から使用されていたモジュールであるため、流通する木材なども
”2間モノ”と呼ばれる3640mm程度の長さのものが一般的でした。
しかし、近年では尺貫法に基づく商取引は制限され、また外国産の材料などはm単位の製材を為されてから輸入されてくるため、そもそも最初に間取りの基準とする方眼紙の1マス(グリッドと呼びます)を1000mm×1000mmとすることも容易となってきました。これが、”mモジュール”です。
そうすると何が起こるか?
お察しの良い方はお気づきの通り、一つあたりのマス目(グリッド)が90mmずつ大きくなるので、
同じような間取りでも部屋が若干大きくなります。
例えば、冒頭で例に挙げた4マス×4マス=16マスの部屋は、
尺モジュールでは8帖=(13.2㎡)
mモジュールでは16㎡=(9.68帖)
となります。

最もこのスケールアップ間を体感できるのがトイレ部分で、
昔ながらの1帖分のトイレでは幅90mm奥行き180mmずつ広くなり、ゆったりとした印象になります。
日本人の体格
これらの尺貫法の単位は昔から日本人の体型に合わせて決められてきました。
しかし、江戸時代の日本人(成人)の平均身長が男性約155~158cm、女性が約143~146cmであったのに対し、
現代では男性の平均身長が170cm前後、女子の平均身長は160cm弱となっており、江戸時代より10cm以上平均身長が伸びています。
昔から和室の鴨居の高さは”5尺8寸”とされていましたが、これは1757.4mm。
昔の日本人であれば頭をぶつける人はそうそういなかったでしょうが、現代では少し身長の高い方は頭をぶつけます。(自慢ではありませんが、私もぶつけます>_<)
必然的に体格(横幅)も大きくなり、尺モジュールにおいて1マスの幅で設計された階段や廊下などは、通れないことはないけども、荷物を持っていたりするとちょっと窮屈・・・
と感じるかもしれません。
ご新築を検討される皆様のご実家も、大多数は尺モジュールで設計されているはずです。
しかし、ご自身の体格やゆとりのある空間での生活などを考慮すると、mモジュールも視野に入れた方が良いかもしれません。
最近のハウスメーカーさんでも、mモジュールを標準としているところが多い印象です。
で、メリット・デメリットは?
ここまで述べてきた通り、尺モジュールは昔から採用されており、既存住宅の圧倒的多数が尺モジュールで建築されています。
そのため、屋内で使用するために流通しているモノ。家具、家電、インテリアなどは、これらにちょうどよいサイズになるよう設計されています。
タンスや冷蔵庫の幅など、尺モジュールのお宅ではピッタリですが、mモジュールのお宅では少し隙間ができるということですね。
顕著なのはカーテンなどをオーダーではなく、ニ〇リなどの量販店でご自身で準備される場合、尺モジュール対応のサイズは安価で種類も豊富ですが、mモジュール対応のものは一気に種類が限られてしまいます。
mモジュールのメリットは、これもここまで触れてきたようにゆとりのある空間が生まれます。
空間(≒建物)が大きくなる分、木材などの材料価格も少し上がりますが、空間が広くなる分(坪数)と比較すると尺モジュールの物件よりも”坪単価”が安くなる傾向です。
坪単価が安くなる・・・これがローコストを売りにしていたハウスメーカーがmモジュールを率先して標準採用としていたカラクリでもあるのですが。
まとめると下表の通りです。
メリット | デメリット | |
尺モジュール | ・流通している家具・家電・インテリアなど、対応しているものが多い ・建物外形が同じサイズであった場合、部屋数が多くなる | ・最小構成の間取りとした場合、少し窮屈に感じる |
mモジュール | ・一つ一つの空間にゆとりが生まれる ・坪単価が安くなる傾向(ただし同一間取りの場合、総額では微増) | ・場所により空間にムダが生まれる ・カーテンなどジャストサイズにしたいもので種類が少ない ・同じグリッドで設計しても敷地上の配置計画によっては納まらない場合がある。 |
大門建築では (+大工さんこぼれ話)
かくいう弊社では、尺モジュールを標準としつつもmモジュールも施工可能。
お施主様の体格やヒアリングの内容から、途中からmモジュールに変更することもあります。
もちろん、上記のようなメリット・デメリットはしっかりお伝えしたうえでですが、近年ではこれらのお話をしたうえで、ご新築の場合6割が尺モジュール、4割がmモジュールという感じです。
(ちなみに、フランチャイズ加盟しております”サイエンスホーム”ではmモジュールを標準としています。)
建築全般に言える事ですが、”どちらが絶対的に良い”というものではなく、ご予算、敷地条件、理想とする暮らし方によって答えは変わってくるはずです。
私自身が自宅を新築するとしても、もちろん広いほうが嬉しいのですが、敷地条件と予算に応じてどちらの方向性にするかは家族と相談しながら悩むところです。
さて、最後は現場の話。
私ども大工は尺貫法が体に染みつきすぎてしまっているため、「貫!3尺に切ってちょうだい!」「ここは2間の建具やから…」などと発言するたびに電気屋さんや配管屋さんなど、他の職工さんに「mmで言うてくれ!」と指摘されてしまいます。
「きゅうひゃくじゅうみり」と「さんじゃく」、「さんぜんろっぴゃくよんじゅうみり」と「にけん」だと言いやすさが違うし、直感的に長さがわかるので、大工同士であればわかりやすいのですが。
それでも、やはり近年は時代の流れもあり、下地材などの大まかで良い寸法は尺寸、細かい造作などはmmなど使い分けており、私自身もスケール(巻き尺)は相変わらず尺目盛り+mmメモリがついているものしか使いませんが、差し金(曲尺)はmm目しかないものを使っています。
なおかつ、お客さんとお話しするときは、「棚の高さは90cmくらいで・・・」とセンチメートルに換算してお話するようにしています。

モジュールに限らず、規格には様々なものがありますが、一長一短はつきものです。