私事ですが、実は高校卒業後に介護福祉士免許を取得し、20代は都会の知的障碍者の入所更生施設(現在の呼び方では施設入所支援と生活介護、短期入所の複合施設)で10年間働いていました。
そして、家業に入る前に職藝学院に通学していた頃にも高齢者向けの小規模多機能施設で夜勤のバイトをしたりしていました。
元福祉屋…というと正確な呼び方でもないし我ながら口が悪いですが、現場仕事を始めてから“電気屋さん”、“配管屋さん”など職種に〇〇屋をつけることが多く、その文脈からいつの間にか「昔は福祉屋さんやったんやぜ~」と自称するようになりました。
そんな経験を踏まえて、今日帰り道に考えたいろいろをコラムにしてみました。
若々しい世帯の新築計画などの華やかなお仕事がある一方、地方工務店が担う細かな修繕作業やリフォームではよくある事例です。
ちょうど現場が落ち着いたので、午後からはHPの更新作業に着手していました。
そんな14:00頃、社長からの一本の着信。
「柱が斜めでTVが映らんようになったって電話あったんやけど、よく話わからんからとりあえず見てきて」
とのこと。
とりあえず向かってみると、この地域によくみられるギュウギュウに詰まった町屋形式の中の1つのお宅でした。
玄関を開けると目の前にパジャマ姿、見たところ90代と思われる高齢女性が1人で座っていました。
「柱が斜めになって女の力じゃ戻せんがいぜ(戻せないのよ)、そっでTV映らんようなって…
なんのせ柱戻してTV映るようにして紐でしばっといて!お金払うから」との事。
この時点では何のことやらわかりませんが、立て続けに
・夫に先立たれ、息子は東京で頑張っている。一人暮らしでなんとかやっている。
・ここ数年で大動脈解離やら帯状疱疹やらで3回くらい救急車に乗って入院したけど、また生きて戻ってきてしまった。
・私が死んだらこの家と隣の家解体してほしいからあんたんとこに頼むわ
なんて身の上話など。
しばらく話を聞いたうえで「ところでTVは?」と聞くと、傍らにあった車いすに乗り込み台所へ案内される。そこで指さした先は中庭に面した下屋上部分に据え付けられた、2階窓から出入りするバルコニー(写真1)。
後付けのもののようですが、造られてからかなり年数が経っており、桁を支える柱が一本、腐り落ちようとしていました。
ステープル留めによって同軸ケーブルを固定していたはずの柱が外れた事で、逆に同軸ケーブルが命綱のようになり、斜めどころか完全に構造体から離れてブラブラと風に揺れています。

全部の部屋でTV映らないの?
と聞くと、「いや、寝室だけ」との返事。
この状態で断線したとしたら、アンテナから家の中に引き込むまでの間なので全てのTVが映らなくなるはず。
ということは…
TVをつけてもらうと、大音量の砂嵐画面と右上に表示された“地上A”の文字列。
“地上D”ボタンを押すと当然のようにワイドショーが流れ始めました。
「直った!」と驚く女性。
バルコニーの惨状はさすがにこのままにしておくには忍びないので、一旦作業場に向かいハシゴを持って再度現場へ。
同軸ケーブルを留めてあったステープルを3つ外し、手すりに縛ってあったビニール紐を切り、柱を傾いたバルコニーに寝かせてきました。
詳細は伺い知れませんでしたが、「手すりと柱が紐で縛ってあった=この状態になったのは以前から」という事です。雪の季節はどうなっていたのか…
とにかく、何かの拍子にアナログTV受信ボタンを押してしまった女性が、TVが映らなくなってしまった理由としてこのバルコニーの状態を思い出し、これが原因と考えたのでしょう。
ここまではよくある話で、問題はここから。
「すぐ来てくれて助かったわ~。上の干場(バルコニー)、暇な時に解体してほしいから見積して」
とのこと。
先ほどの話では自分の死後に家全てを解体したいというビジョンを持っているご様子。
確かに現状バルコニーは危険な状態であり、人間が上に乗ることもできないどころか、角の柱が一本無いため、積雪により崩壊する可能性もあります(崩壊しても材料が下部の中庭に落ちるため、人命への被害はないでしょうが)。
しかし、バルコニーだけを壊すにしても、エアコンの室外機が2つおいてあることや、軒先瓦を撤去してポリカ波板を差し込んであることから、単純にバルコニーの構造部を撤去するだけではなく、電気屋さんや瓦屋さんによる復旧作業も必要となることから、通常の木部解体に比べるとちょっと割高になりそうです。
それを伝えると、「じゃあ干場あのままにしとくわ。代わりに死んだ後に全部壊す見積、暇な時でいいから作ってくれんけ?」
との返事。
・何年後かわからないので、その時には確実に今よりも値段が上がっているので参考にならない
・お見積りの際は、一度息子さんの意向も聞きたいので連絡先を教えてほしい
とお伝えしましたが、「自分の事は自分で。息子に頼りたくないから、とにかく見積が欲しい。」
と頑ななご様子。
そしてその後は「自分にはお金は使わないけど、東京で住んでいる息子がいろいろとお金がかかるみたいで、来るたびに援助をしている。息子は感謝してくれる」という話や、「隣の〇〇さんも死んだら家壊すやろうけど、その時にはこの家の外壁ブルーシートになってみっともないから、この家も壊さんとあかん」
この2種類の話を30分程度、繰り返ししておられました。
こちらからは、「どうしてもなら解体見積はできるけど、一応息子さんの実家やし見積する前に直接話しさせて~」と何度かお伝えしながら、少しずつ話をはぐらかして家を出てきました。
お話の間気になっていたのは、ベッド脇の汚れたポータブルトイレと微かに漂う便臭。
さっき見た台所テーブル上の茶碗に入った固く半透明になったごはんと齧りかけの梅干し
もちろん、会話はちゃんと成立していますし、
認知症ではない方でも単純にいろいろと億劫になり、上記のような暮らし方をされている方も大勢おられます。
冒頭の地上Aと地上Dなんて、もっとお若い方でも最初は混乱した経験があるはず。
ただ、言葉の端々に感じる違和感。こんな時、お相手の認知能力がどこまでハッキリしているかを考えてしまい、いろいろと判断に迷います。
少額であれ、利益だけを考えるならば「危険だから」という理由でバルコニーの解体を勧められますし、多少割高な見積でも通るのでしょう。
しかし、そんな現場から帰宅した日のビールは美味しくなさそうです。
別事例
こんなこともありました。
令和6年元旦の能登半島地震。
戸が動かないという御連絡で向かった、事務所から数百メートルの現場。
こちらでも、見たところ80歳代後半の男性が町屋で一人でお住いでした。
妻に先立たれ、息子は東京で高収入で立派にやっている。よく聞くお話です。
動かなくなったガラス戸や襖をとりあえずジャッキアップして開放。
同様の報告が多数あることから、後日改めてジャッキ無しでも動くように調整しに来ることを伝えると、
男性から「廊下に段差ができてしまった」こと、「和室の床が揺れる」ことなども伝えられ、一緒に直してほしいと依頼されました。
一見するだけでも、地震による基礎の不動沈下が起き、あちらこちらで床レベルがズレているようです。
和室の床が揺れるのは、同様の理由で床を支える束が外れたか、束石が沈んで床組が浮いている状態なのでトランポリン状態になっているのです。
「戸直しに来た時についでに中見てみます」とお伝えし一旦出ましたが、その夜、東京に住むという息子さんから電話がありました。
「親父が死んだら壊すだけの家だから、出費はなるべく抑えたい。必要最小限にしたいので直すのは戸だけにしてほしい」
との事。
後日、戸を直しに行った際には息子さんからそんな電話があった旨をお伝えし、とりあえず家の中を自由に行き来できるよう、動かない戸だけを直してきました。
こちらの現場、実はさらに後日談があり…
数か月後、
「裏手の外壁の板金が剝がれかけているのでしっかり留めてほしい。」
とのご連絡。
見積不要でいいからなるべく急いでやって欲しいという事でしたので、すぐに板金屋さんを手配し、補強も兼ねながらついでに目につく場所をしっかり留めておいてもらいましたが、ご請求書をお持ちした後に
「思っていたよりも高い。ワシは昔、建具大工をやっとったから大体の仕事の金額はわかる。高すぎる」
との連絡。
4~50年前の金額と比較されると確かに高いでしょう。
現在42歳の私でさえ小学校のころジュースは100円でしたが、今では150円です。
今日現在では適正価格どころか、近隣の大手リフォーム業者では取り合ってくれないか、少し割り増し請求になる内容です。
電話対応した社長はしばらくその旨を説明しましたが、断固として聞き入れてもらえないので、
「じゃあ思っていただけ金額をお持ちください」という事で話がつきました。
その日の午後、男性がお持ちになったのは、弊社が板金屋さんに支払う作業費の2/3程度の金額。
そうです。会社としては「いくらか手出ししてまで人の家を直した」という事になります。
ボランティアどころではありません。
こちらの男性は受け答えもしっかりしており、認知能力に問題はないように見えましたが、昔と比較してどうしても納得できず、我を通したという感じなのでしょうか。
今でも毎日子供の保育園の送迎で男性の家の前を通りますが、いつも戸は閉め切ってあります。
傾いて、歩くたびに床が上下する家で、男性は今も独りで暮らしているのでしょうか。
高齢単身世帯はどれくらいの割合?
高岡市が公表している空き家対策計画の資料から、市内の総世帯数における単身世帯の割合が見えてきます。
| 総住宅数 | 総世帯数 | 世帯人員 | 一世帯当たり人員 | 一人世帯 | 65歳以上単身世帯 | 子育て世帯 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 平成10年 | 60,170 | 53,360 | 170,580 | 3.20 | 9,610 | 2,650 | 6,200 |
| 平成15年 | 62,780 | 53,860 | 166,830 | 3.10 | 9,760 | 3,440 | 6,650 |
| 平成20年 | 70,600 | 60,840 | 176,040 | 2.89 | 13,150 | 4,670 | 6,280 |
| 平成25年 | 72,980 | 62,010 | 171,040 | 2.76 | 15,150 | 6,750 | 7,450 |
| 令和8年 | ? | 71,367 | 160,480 | ? | ? | ? | ? |
※令和8年度数値は市公表値により
65歳以上の単身世帯は、公表されている平成25年(13年前!)のデータで6,750世帯と、全体の10.8%
平成10年では4.9%なので、この15年で倍以上に。
さらに13年経過した令和8年現在のデータは見つけられませんでしたが、さらに割合がアップしているでしょう。
中学校の時に“核家族化が進んでいる”なんて社会で習っても「は~そんなもんか。都会はいろいろあるもんやな」程度にしか思っていなかったのですが、30年ほど経過した今、その授業の答え合わせを見せられている気がします。
で、結局のところ何ができる?
延々と長文を書いてきましたが、たぶん日本中どの地方においても、この土地と同様に
・配偶者に先立たれ
・子供たちは都会に
・自分が死んだら空き家になる
という高齢単身世帯はかなり多いでしょう。
そして、高岡市について言えば富山市よりも、また日本全国平均よりもその割合は多いようです。
着々と認知能力が低下していく高齢単身者を狙った、“悪徳リフォーム受注”なども問題になっています。
結局のところ、私に出来ることは何でしょうか。
長年住み慣れた環境を離れたくはなく、近くに住む子世帯からのサポートも乏しい世帯では、心身のサポートやケアは主に行政を窓口とし、居宅介護サービスを受けたり、民生委員による見守りを受けられますが、住環境については貯蓄をお持ちの方ほど自分一人で決められることが多いようです(子世帯の援助が必要な方はその依頼の際に、検討している工事が明らかになり、必然的に意見を挟む余地が生まれるため)。
そのような場合、工事を請け負う私たちにもモラルが求められます。
・ADLはどの程度か?ADLのレベルを考慮したときに危険な場所はないか?
・この先、何年この家で住めるのか?
・依頼主がこの家に住まなくなった時、空き家になるのか?もしくは高齢となった子が帰ってくる可能性はあるか?
・↑の3点を考慮したとき、不必要な工事はないか?逆に提案した方が良い工事はなにか?
これらを総合的に判断し、
認知能力に疑問が残る場合は肉親にも連絡し、ご本人の希望・金額・内容を伝えたうえで、一緒に考えてもらう。
というひと手間が必要だと思っております。
もちろん、「あと30年も生きとらんから、水回りだけ新しくしてもらって気持ちよく余生を送りたい」という明確なビジョンを持たれた若々しい60~70代のお客様からの御依頼も多く、そんな場合はわざわざ子世帯の意見を伺うこともありませんし、ご依頼いただいた通りに対応しておりますので、あくまで打ち合わせ時のお客様との会話から判断していくということです。
どんどん風呂敷を広げながら長々と書きましたが、結局のところなんだか尻すぼみ&よくある結論ですね。
「元福祉屋、現建築屋は高齢単身世帯とどう向き合うべきか?」
そうです。タイトルからして私も誰かに問いかけ、考えながら向き合う日々です。
高齢者単身世帯の住居は、次のステージでは高確率で空き家になります。
今度は空き家対策と建築基準法改正…を関連付けて考えてみても良いかもしれませんね。
